その11

 かわいいワンちゃんが美人の女とともにトットコ去っていった後、清潔感のある春の空を何げなく眺めていると、その空の下方を大胆に覆っている恐ろしく無機的な球体が目に入った。それはお台場のフジテレビの建物の左上のあたりにある例の玉と実によく似ていた。空を大胆に覆っているその球体は、フジテレビの玉よりもだいぶ大きいように思われたが、実際のところどうなのかはよくわからなかった。というのは、ふちりんはお台場には行ったことがあるが、遠くからその玉を見た実績があるだけで、フジテレビのごく近くでその玉を見たことがないからだ。フジテレビの玉を近くで見たら、ものすごく大きいのかもしれず、今ふちりんの目の前にある球体の大きさを上回る可能性は否定できない。しかし、どちらが大きいにせよ、目の前のその球体が恐ろしく巨大なものであることに疑いを差し挟む余地はなかった。

 その大きさに驚愕を禁じえなかったふちりんは、急におのぼりさんのような雰囲気を発散しはじめて、携帯を取り出し、それに付属しているカメラでその大いなる玉を記念に撮影しようと構えた。その際、老夫婦と、その娘と思われる心温まる家族が、その巨大な玉を背景にして和気あいあいと記念撮影をしていたのだが、ふちりんは、早くこの玉を撮影したいという情念に支配されすぎていたため、その、世界の平和を象徴していると言っても過言ではない心温まる家族を、邪魔くさいと思ってしまい、早く撮影を終えてどっか行って欲しいと思ってしまった。しかしふちりんはその、自分の邪悪な思念に対して、「コラー! そんなんじゃ梨華ちゃんに嫌われちゃうよ!」と叱り、その叱りを受けて、自分の醜悪な思念を心から反省したのだった。気を取り直して、目の前の巨大な球体を撮影したふちりんは、その画像を添付し、「何これすごい」みたいなツイートをした。すると、名古屋を愛していることで有名なフォロワーのTMCさんからすぐにリプライが来て、「名古屋市科学館なめんな!」と怒られたので、「っべー! あぶなかったー!」と思った。なぜそのように肝を冷やしたかと言うと、最初は「何これすごい。お台場のパクリだ!」とツイートしようしたからである。「でもこんなこと言ったら、名古屋出身の人とかに怒られるかもしれない。そもそもパクリかどうかわからないし。むしろお台場のあの玉の方が、ここの玉をパクッたのかもしれない。せっかく名古屋に遊びに来たのに、名古屋人を敵に回したくない。そんなのラブ&ピース的ではない」と思い直し、ギリギリのところでそのツイートを「何これすごい」だけに抑えたのであった。そうは言っても、その玉は内部的にはすごい機能を備えているのかもしれないが、外見上は巨大なだけのただの銀色の玉だったので、3分くらいで見飽きてしまったのだった。