その8 梨華ヲタフリートーク

 和室の畳の上で胡坐をかいたり、寝そべったり、めいめい楽な格好をしながら、梨華ちゃんヲタ5人によるフリートークが始まった。僕は梨華ちゃんに似て人見知りでシャイなので、ひどく緊張していた。僕以外の4名はけっこうトークが上手くて、僕が訥々としゃべると変な空気になったが、一人だけ会話に加わらなかったらより気まずいことになるので、無言になる時間が長くなりすぎないように、頑張ってたまに口を開き、毒にも薬にもならないようなことを言った。

 まずは各々が梨華ちゃんを好きになった経緯などが語られたが、僕の経緯はとくに尋ねられなかったため、あえて自分から話すことはしなかった。すると急に、梨華ちゃんに未だに男関係のスキャンダルがないのはすごい、みたいな話になった。会ったばかりでもう“それ系”の話をしちゃうの?と思ってドキドキしてきた。そこでAさんが、2ちゃんねるで噂になった男の名前を2、3持ち出したため、みんなの表情にかすかな動揺が浮かんだが、「でも写真が撮られてないから大丈夫」ということで我々の意見は一致した。それがたとえ明らかなガセネタであっても、僕は梨華ちゃんの男の噂を耳にするだけで呼吸困難になり、脈の打ち方が不自然になり、瞳孔が開いてしまうのだが、実際その時も体調がおかしくなりかけたのだが、ぜんぜん気にしてない風を装って「でも写真を撮られたことがないから大丈夫」とボソッと言った。

 さらに僕は、まるで不安を打ち消そうとするかのように、「梨華ちゃんはあんなに可愛いんだから、当然いろんな男に言い寄られているはずです。芸能界は、そういうところです。でも、2ちゃんなどで噂になったことがある男は、ただ梨華ちゃんに言い寄っているだけの男で、梨華ちゃんはその男には全く興味を持ってないんですよ」と、わざわざ言わなくてもいいようなことを言った。ぜんぜん気にしてない風を装っているつもりだったが、どうしても声が震えてしまっていた。

 ここらへんでこの種の話は終わりを告げると思いきや、話はさらに発展し、「梨華ちゃん結婚したらみんなどうする?」というシリアスな話になったから、僕は「え! 会ったばかりなのにそんな究極的な話しちゃう!? いいの!?」となり、平静を装おうとしながらもオロオロした。するとDさんが、「俺はもし梨華ちゃん結婚したら、ヲタやめるよ」と言い切ったので、「え! この場でそんなこと言っていいの!? 怒られない?」と驚きました。怒るではないけれども、Bさんが「え、なんでですか。別に結婚しててもいいじゃないですか。俺はそういうの気にならないし、ヲタを続けますよ」と断固たる口調で言い、Dさんが「いや、俺は無理だよ。だってそうなったら人妻だよ?」と応じ、Bさんが「いや、なんでですか。結婚とか関係ないじゃないですか」と、信じられないというような表情で言い、ここでCさんが「いや、俺はどっちの気持ちもわかりますよ」と仲裁に入るような発言をしました。顔を合わせて1時間も経たないうちにこんなシリアスな話になるとは予想だにしていなかった僕は、動揺と驚きを隠しきれなかったが、僕もなんか言わなければいけないと思い、胸にそっと左手を当てながら、「梨華ちゃん結婚したら、僕もやっぱり辛い気持ちになると思います」とDさんの肩を持つようなことを言った。バスで隣の席のAさんは「結婚したらやっぱり辛いけど、応援は続けると思う」というニュアンスのことを語っていました。

 僕はDさんの肩を持つようなことを言いましたが、梨華ちゃんのファンをやめるつもりはないです。ただやっぱり、梨華ちゃん結婚を報告したとしたら、まず最初に来る気持ちは、おめでとうではなくて、大いなるショッキングだと思います。梨華ちゃん結婚した時に、つんくさんがツイッター等で「イエーイ! 石川結婚おめでとー!」とか言ってるのを想像すると今から憂鬱な気持ちになります。僕は「イエーイ!」なんて言えずに、すごい勢いで泣くと思います。僕の自慢の二重が一重になってしばらく元に戻らなくなるくらい泣き続けると思います。もしかしたら悲しみのあまり死ぬかもしれません。その際はおそらく皆さんのサポートが必要になるので、「ふちりん死なないで!」などと声をかけたり、何も言わずに優しくあるいは強く抱きしめてください。梨華ちゃんに恋をする資格がなくたって、僕はやっぱり泣くんだろうと思います。最近、そういう悲しい夢を見ました。心の中身を全てしぼり出すように泣いた後、心の中に何が残るかは、まだわかりません。その時になってみないとわからない。もう心の中にはなんにも残ってなくて、梨華ちゃんから完全に離れてしまうかもしれない。けれど、残っていてほしいと思うんだ。それでもやっぱり梨華ちゃんのことを大切に思う気持ちが。梨華ちゃんの幸福を喜び、願う気持ちが。悲しみの後に残ったその気持ちで、梨華ちゃんに「おめでとう」って言いたい。「幸せになってね」って言いたい。そして、結婚した後の梨華ちゃんのことも、優しい気持ちで応援したいし、ずっと支えていきたい。だってこんなに好きになれた人なんだもの。そのために僕は、今どんなに辛くても、梨華ちゃんとしっかり向き合って応援して、一緒の時間をできるだけ笑顔で過ごして、梨華ちゃんの全てをたくさん心で感じたい。そういう事情もあって、僕はこのバスツアーに参加をしました。真面目なことを書いてしまい、すみませんでした。