その11 短冊が回収される

 暮れかける空の下を歩いて、僕はバスに乗り込んだ。ライブが行われる会場へ向けてバスが出発した。添乗員さんはファンから七夕の短冊を回収していった。行きのバスの中で、ライブの時までに書くように言われていた例の短冊である。

 僕はコテージの居間で、すき焼きを食べる前に短冊を書いた。梨華ちゃんに叶えてもらいたい願い事をどのように書けばいいのかは、行きのバスの中でも悩んだ。あまり生々しい願い事(抱きしめてほしい等)は避けて、プッと噴き出してしまうようなオモシロな願い事にしようと決めたのだが、バスの中ではオモシロなそれが全く思いつかなかった。2ショット撮影のことで不安になったりドキドキしていたせいだと思っていたが、2ショットを終えた後、コテージでゆっくり考えてみてもオモシロな願い事がさっぱり考えつかなかったので、不安やドキドキは関係なく、単にオモシロの才能がないだけであることが浮き彫りになってきた。

 もし星野さん*1なら、簡単にオモシロな願い事を考えつくのだろうなと思った。でも星野さんはオモシロすぎるため、逆にオモシロが伝わらないかもしれない、とも思った。ここで必要とされるオモシロはおそらく、そういうオモシロすぎるオモシロではなくて、オモシロすぎないオモシロであるだろう。「そんなの関係ねえ!」とか、「だっちゅーの!」とか、「ワイルドだろう?」とか、その種の大衆的なオモシロが要求されるだろう。とくに最近の梨華ちゃんは、トークショーなどで、ことあるごとに「ワイルドだろう?」と言って一人で笑ったり、「オッケ〜☆*2とか言って満足そうな顔をしている。かわいい。

 そこで僕は、「ワイルドだろう?」的な願い事を考えてみた。まず「おふみゅりだろう?」というのを思いついたが、梨華ちゃんは「ふみゅう」の意味をたぶん知らないし*3、「ワイルドだろう?」のパクりでもあるし、そもそも願い事ではない。ただの質問というか、質問でもない。意味がわからない。「おホイミだろう?」というのも不可避的に頭に浮かんできたが、それは同様の理由でただちに却下された。「ワイルドだろう?」から離れる必要があるかもしれない、と思い、そういう一発ギャグ的な思考をとりあえず脇にのけておくことにした。

 梨華ちゃんと言えばお酒である(違います)。お酒にからめて面白いことを言えないだろうか。梨華ちゃんの好きなものを話題に出したら、きっと梨華ちゃんは不可避的に楽しい気持ちになるから、願い事が多少面白くなさすぎてもその分をカバーできるだろう。「梨華ちゃんと2人でお酒が飲みたいです」。うーん、これじゃダメだね。欲望に素直すぎる。もうひと捻りできないものだろうか。うーむ。と悩んでいたら、だんだん残された時間も少なくなり、僕は追い詰められてきた。

 もうオモシロにこだわっている場合ではない。短冊を白のまま提出するわけにはいかない。そんなことをしたら、人生を諦めきった虚無的な人間だと梨華ちゃんに思われてしまう。あるいは、科学を盲目的に信奉している狭量なリアリストだと思われちゃう。そんなのはいやだ。面白くなくても何でもいいから、とにかく願い事を書こう。そう思って僕はマジックを手に取って短冊に向かい合った。

 お酒かあ、うーむ。お酒と言えば二日酔い。梨華ちゃんは二日酔いするのだろうか。周りのみんながベロンベロンになっても一人で冷静に飲み続けるという逸話は聞いたことあるけど、二日酔いしたとか吐いたとか酒乱になったとかいう話は耳にしたことがない。すなわち二日酔いにはならないということか。それは羨ましい。そうだ、これをお願いしよう。と思って、マジックを動かしはじめた。

 僕は最近めちゃくそ二日酔いがしんどいのである。若い頃から二日酔いは重かったが、最近とりわけヘビーである。もうお酒をやめちゃいたいくらいだお。というか肝臓がおかしくなっているのかもしれない。どうしよう。病院行ったほうがいいのだろうか。病院こわい。

 「僕は最近、おっさんになってきたせいか、二日酔いがひどくて困っています。僕も梨華ちゃんみたいにお酒が強くなりたいです! byふちりん」と書いたような気がします。細部は違うかもしれないが、こんなクソみたいな願い事の細部なんてどうだっていいと思います。どうですかみなさん、面白くないでしょう。面白くもなければロマンチックでもなく、シュールでもない。なんなんだこれは。追い詰められて出た願い事がこれだったのだけど、火事場の馬鹿ヂカラが出たわけでもなく、ただふちりんの無能が現れ出てしまっただけのこととなりました。ふみゅう。書き終えて、何度も読み返してみたけど、「あれ? やっちゃったかな?」みたいな気持ちになりました。でも他に無難だったり面白かったりする願い事は思いつかないし、これが僕の限界だということを認めるよりほかにしようがなかった。

 2日目の夕方にはファンの集いが催されて、会場に大きな笹が2本飾られ、ファンのみんなの短冊がたくさんぶら下がっていたのですが、僕の短冊はどこにも見当たりませんでした。案の定、というか、さもありなん、というか、そんな気持ちでした。僕のクソしょうもない短冊は、短冊選抜係のスタッフさんのお眼に適わなかったというわけです。笹に飾る価値もないクソすぎる願いだったというわけです。でも、梨華ちゃんが「笹に飾られなかった短冊もあとでぜんぶ読みます」という優しいことを言ってくれたのでよかったです。僕のくだらない願い事を見て、ちょっとでも笑ってくれたら嬉しいな、と思います。

*1:伝説のヲタ超人

*2:ローラの面白いギャグ

*3:ふみゅうの意味は僕でさえよくわかっていない