帰宅〜うたばん


 うたばん録画問題を解決した僕は、眉間をなでなでしながらにこやかに帰宅しました。途中、コンビニでTVガイドとテレビジョンを買いました。部屋で煙草をすいながらそれらの雑誌を眺めました。梨華ちゃんの写真を見て、みっともないほど顔がゆるゆるになりました。鏡で確認したから、これは間違いありません。いまだかつてないほどのゆるゆる顔でした。ゆるんゆるんと言ってもいいかもしれない。もし梨華ちゃんと二人っきりで10分ほどいたら、ゆるゆるの程度が進みすぎて、顔が原型をとどめなくなるんじゃないか、しまいには頬のおにくがボタボタと落ちていってしまうのではないかと、心配になりました。でも梨華ちゃんと一緒にいられるはずはないから、顔がどろどろになることはない。そう考えて、僕は安心しました。でも切なくなりました。


 うたばんを観ました。ちゃんと録画できていました。「お母さんありがとう」と呟きました。化学君が出てきました。「ギュっと抱きしめてチューしたい」と言っていました。化学君は僕と全く同じことを考えていました。梨華ちゃんは嫌がっていました。僕もあんな風に嫌がられるんだろうなと思ったら、少し悲しくなりました。そのうち、展開がおかしなことになってきました。梨華ちゃんが化学君のほっぺにキスをするというんです。吉澤さんと矢口さんが、「今までお世話になったんだし・・・」みたいなことを言いました。「おい、そういうフリはやめろ、マジでシャレんなんねえから!ちょっと、待って、ほっぺにチューとか、は?マジですんの?何この本当にしかねない雰囲気ナニこれおい矢口!なんとかしろヤグッチ!」僕は正座をし、身を乗り出してTV画面に向かってわめきました。さらには正座をしながら飛び跳ねました。じっとしていられなかったんです。ほっぺとは言え、梨華ちゃんがキスをするなんて!


 キスをする前に、CMにいきました。僕は早送りをしながら、カッターを探しました。まさか本当にキスなんてしないだろうけど、万が一のために。梨華ちゃんのくちびるが化学君のほっぺに触れるか触れないかのところでバッサリいこう。はたしてCMが明け、梨華ちゃんはキスをしませんでした。パンチ渡部なる怪しげな人物が代わりにキスしました。僕は心底ほっとしました。カッターの刃をカチカチッと中に納めました。正座をしていた脚をくずし、体育座りをして壁によっかかって煙草を吸いました。命がいくつあっても、足りやしない。梨華ちゃんを好きでいるのは、とても疲れます。でもそれでも、僕は梨華ちゃんのことが大好きです。