梨華ちゃんのことなんか、好きにならなきゃよかった。

 僕は思いっきり和也だった。愛する南ちゃんを達也に取られてしまっていた。僕は2階のベランダで、達也からそのことを告げられた。

 「俺は南に、フルネームで告白した。上杉達也浅倉南を愛していますと言った。どうしてフルネームかって? 俺は全身全霊で南のことを丸々愛してるからだ。そうしたら南は、まんざらでもない感じだった。ごめんな、俺は南を手に入れることになった。和也には悪いと思うけど、しかたない。俺は南を好きで、南は俺が好きなんだ。和也の入り込む余地はぜんぜんない。一切ない。俺は明日あたり、南とセックスすると思う。少なくとも指マンまでは行くと思う。でも俺のことは恨まないでほしい。これはどうしようもないことなんだ。不可避的にそうなる。わかってくれるよな、和也?」

 僕はおめでとう、よかったな、恨んだりしないよ、むしろ祝福しちゃうよ、素敵なことだね、幸せになってくれよ、僕の分まで。と強がった。しかしながら涙が出てきた。華厳の滝よりすごい勢いで出てきた。僕は声を出して泣いた。いつまでも泣いた。南ちゃああああん。うわあああん。うええええん。うえええんつ。

 目が覚めると、僕は泣いていた。顔の両がわに華厳の滝が流れていた。でもそれはすぐに止まった。僕は和也じゃないからだ。泣く必要なんかない。だけど、いつかはこういう事になるんだろうなと思った。和也的な立場に立たされるんだろうな。そうしたらやはり滝が発生するに違いない。そしてたぶん水分補給が間に合わなくてすぐ死ぬ。うん、そうやって死ねたらいいね。だけど死ねないんだ。滝なんか発生するわけないんだから、常識的に考えて。もしそうなった場合、梨華ちゃんを達也に取られた場合、僕はどうやって乗り越えるんだろう。そのときの苦しみを考えたら、超絶に恐ろしくなった。

 僕は最近、そのことばかり考える。人生がぜんぜん楽しくない。梨華ちゃんはかわいいけど、眺めていると幸せになれるけど、それと同時に恐ろしく不安になる。だってこの先にはとんでもない不幸が待っているんだ。わかってるんだそれは。不幸の影が遠くの方にちらちら見えているんだ。僕は毎日それに怯えながら息をしている。ぜんぜん楽しくない。梨華ちゃんのことなんか、好きにならなきゃよかった。でも哀しいことに好きになっちゃったんだ。どうしようもない。どうしようもない。僕は何らかの救済を求めてこの日記を書いてる。だけどそんな気配はぜんぜんない。誰も僕を救ってはくれないし、自分でも自分を救えない。どうしようもない。ねえタッちゃん、どうしたらいいの? 僕はどうしたら超絶な不幸を回避できるの? 「どうしようもない。不可避的にそうなる」