梨華ちゃんも僕も天皇陛下の臣民なのである。

ドラゴンボール Z Sparking

ドラゴンボール Z Sparking

 朝からとにかくドラゴンボールZスパーキング!をやる。アルティメットバトルという100人勝ち抜きモードで、ランキング1位を目指す。僕が一番好きなのはクリリンなんだけど、クリリンではもう1位になったので、手当たり次第ほかのキャラ使って遊んでいる。今日は額にMの烙印を押されたベジータを使った。トランクスとの対戦のとき、「もう俺には家族なんて関係ねえ!」とか言うから、その男気にほれぼれした。ベジータは「死にやがれえええ!」とか言いながら息子を思いっきりぶっとばしていた。かっこいい。それでこそベジータ。しかしながら超必殺技を出したら、「愛するブルマ、トランクス、幸せになれよ」的なことを言って殊勝にも自爆をした。やれやれ。ろくでもないツンデレだぜ。

 「死にやがれ!」とか「くたばりやがれ!」とか「ぶっ殺してやる!」などというぶっそうなセリフを楽しんでいたら、あっというまに5時間くらいたった。早稲田の寄席研のライブに行かなきゃいけないから、そろそろやめる。「俺はろくでもない、人間の屑である。小泉総理のチンカスにたかるハエにすぎない、地球上で一番低劣非道な生命体である」などと、自分を徹底的に卑下しながら徹底的に髭をそった。そして鼻毛とかもカッツして、まあ顔を洗ったりとかして家を出る。

 早稲田につくと、まだ時間があったから、歌広に行く。知らないうちに30分140円とかいう人をなめきった値段になっている。なめられて当然の僕ではあるけれど、やはり頭に来る。でもここで店員に向かって「人をなめるな!」とか言うのも大人気ないので素直に金を払う。1時間分で280円。
 うらぶれたボックスに入ると、まず君が代を歌う。キーが高いので、3つくらいキーを下げる。それから適当にハロプロとかキンキとかを歌う。禁煙の効果だろうか、声が以前よりもすんなりと出てくる。ノドのスタミナも向上している。後半になっても何とか頑張れる。
 最後に「DANDAN心魅かれてく」を歌う。ZENZEN気にしないフリしてもほら君に恋してる。わちゃあ。出たよこれ。またツンデレだよ。

 店を出て、学生会館へ向かって歩く。途中で、早大生らしき人たちとたくさんすれちがう。僕は何か悔しかったので、早大生づらして歩いた。まあ半年前まで早大生だったんだし、まさかバレないだろう。そして結局、最後までバレなかった。誰も僕のことを指差したりしなかった。「お前は本当はニーツだろう。バレバレなんだよ。雰囲気でわかる。お前みたいな奴は、早稲田から出ーてーいけ! 出ーてーいけ! いますぐここから出ーてーいけ!」とは誰も言わなかった。

 学生会館に入る。どこにいったらいいかわからなくて、うろうろ歩き回った。どこにも僕の居場所はないように思われた。僕はとりあえずそのへんのベンチに座って友達が来るのを待った。警備員が来て、「すいません、ちょっといいですか。あなた早大生じゃないですよね。ニーツのかたですよね。悪いんですけど、ニーツのかたは即刻出て行ってもらいたいんですよね。まあなんというか、あなたのような人は社会のゴミなんですよね。本来ならゴミ袋に入れたいところですけど、それは勘弁してやりますよ。今すぐここから出てってください。はやくしろよ。出てけって言ってんだろ糞ニーツが。死ねよ糞が。糞以下だろお前は?」というような事を言われたらどうしようと思った。こわかった。人が怖かった。誰もかれもが僕を小ばかにしているように思えた。さらには僕を憎んでいるようにさえ思えてきた。そうしてガクガク震えていたら、P君とM君が来て、僕を挟み込むようにしてすわった。これがはさみ将棋なら、僕は死亡しているところだ。M君が、「こないだふっちさんが薦めていた小説、人間失格を読みました。とりあえず、ふっちさんの日記が太宰治村上春樹で成り立っていることがよくわかりました」と言う。それを聞いて僕は、あーバレちゃったなあと思った。太宰と春樹をぬっちして書いてるのが、バレちゃったなあと。でも正直を言うと、ところどころ町田康も取り入れているんだけど、それはまだバレてないらしくて安心した。

 ライブが始まる。輪ゴムが出てくる。まきぶぅとエリンゴの二人組。この二人が今回僕をライブに誘ってくれた。ふたりともとてもかわいい。そしてとても面白い。一人がボケると、もう一人がちゃんとツッコむ。そういう役割分担がちゃんと出来ているところに感心した。なんていうのは冗談だけど。とにかく笑った。まきぶぅの酔っ払いのオヤジみたいな動きにはほれぼれした。エリンゴのSっ気まんまんの突っ込みには勃起した。うそだよ。勃起とかうそだって。僕は梨華ちゃんにしか勃起しないんだから。
 それで、モ研のY君もライブに出てたわけだけど、これは見てて不安になった。ネタは面白いんだけどね。Y君が極度に挙動不審だから、「だいじょうぶかな、このひとだいじょうぶかな」って心配になって、ネタに集中できないというところがある。でも挙動不審を治せば、いいところまで行くと思う。M-1グランプリは無理かもしれないけど、町内会グランプリでは3位に入賞できると思う。

 ライブが終わったあと、ロビーで出演者たちと歓談する。輪ゴムが来て、「ふっちさん、忙しいところをありがとうございます」と僕に明るく挨拶する。僕ははっきり言いましてぜんぜん忙しくないんです、なんとなればニーツだから。でも僕は猫の手を借りるほど忙しいのに何とか時間を作って輪ゴムに会いに来たっていう感じに振舞った。
 しかしとにかく、ふたりとも本当にかわいくて本当にまいった。どうしてもどっちかと結婚しなければならないという事になったら、これは相当迷う。変なおじさん的ボディランゲージで楽しませてくれるまきぶぅか、夜な夜なムチでしばいてくれるエリンゴか、ものすごく迷ってしまう。
 そして僕が「はい、はい」としか言わなかったために、会話が続かなくなった。居たたまれなくなった僕は輪ゴムから離れてすみっこの方に行った。こういうときに役立つのが煙草なんだけど、禁煙中だから吸えなくって辛かった。P君とかM君とか輪ゴムとか、みんながまさに輪になって楽しそうに話してるのを、ただぼんやり見ていた。僕は、駄目だなあと思った。人間とうまく接することができない。

 それからP君とM君と3人でわっしょいに行く。かなりさわがしくて、ほとんど怒鳴るくらいじゃないと声が通らない。みっともないなあと思いながらもがんばって怒鳴った。
 「ふっちさんは彼女とか欲しくないんですか?」「そんなの、欲しいよ」「え、欲しいンですか彼女。意外だなあ」「欲しいのは、梨華ちゃんなんだけど」「いや、ちがいます、一般人のことです、俺が言っているのは」「梨華ちゃんだって、一般人だよ」「梨華ちゃんは、芸能人じゃないですか」「梨華ちゃんは、一般人だよ。僕らと何も変わらないよ。臣民だよ。そうだよ、天皇陛下の臣民なんだよ僕らは。梨華ちゃんも、僕も、臣民。同じだよ。特別なのは、天皇陛下とそのご家族だけなんだよ!」
 このあたりから後の記憶はほとんど残ってない。思い出せるのは、家に帰ってすぐ梨華ちゃんを愛したことくらいだ。