ふっち君の日記。

石川梨華ちゃんにガチ恋しているおじさんの記録

音楽ガッタス新曲イベント

℃-uteコン打ち上げ

 上野の和民でデル氏とたか木さんと3人で飲んでいると、群馬の℃-uteコン帰りの人たちが10人くらいドッとやってきました。僕の隣に、うたかさんとはたPさんが座りました。はたPさんはその逞しい手をスッと僕に差し出しました。アメリカでは強く握手をするのが礼儀である、ということを思い出しました。でもここは日本だし優しくするべきだ、と思い、優しく握りました。はたPさんの握りも弱めでした。バスツアーの時に梨華ちゃんがした握手アメリカ並みに強かったことを思い出しました。痛いくらいでした。
 「私は、はたPと申します」
 「あー、爆音娘の……」
 「そうです」
 「僕は、田中といいます」
 「ちょっとふっちさん、そこはハンドルネームを言うべきですよ。なんで本名なんですか!」とデル氏が突っ込んだ。
 「わはは、そうですよね。僕の名前はふっち君といいます」
 「あ、ふっち君ですか。読んでますよ」
 「え、読んでるんですか、ありがとうございます」
 僕のお下劣きわまりない日記を読んでいるのに、はたPさんはどうしてそんなに普通にしていられるのだろうかと思いました。僕のような変態と接するのに慣れているのだろうか。
 うたかさんの頭はMの形に剃られていて、Mの部分はピンク色に染められていました。僕はそれをかっこいいと思いました。
 「このMは桃子のMでもあるし、雅ちゃんのMでもあるし、梅田えりかさんのMでもある」とのことでした。
 「梅田の“め”ですか? それは強引というものですよ!」と誰かが突っ込み、みんなで大爆笑しました。
 それから自己紹介が始まり、「ふっち君から自己紹介を始めましょう」とうたかさんが言いました。
 僕はひとつ咳払いをしました。
 「えー、僕の名前は、ふっち君といいます。梨華ちゃん界隈に入れてもらえず、気がついたらこの℃界隈に流れ着いていました。僕の目標は、梨華ちゃん結婚することです」
 「それじゃあ梨華ちゃん界隈に入れてもらえないのも当然だわな!」という何者かの突っ込みが入り、みんなが笑いました。
 「えへへ、そうですね。それではよろしくお願いします。僕のことはふっち君と呼んでください」
 「ふっち君でもいいし、ふちりんでもいいですよ!」とうたかさんが付け加えました。

男色デル氏

 ひどく酔っぱらったデル氏が、「ちんこ触って良いですか?」と唐突に尋ねた。
 「いいですよ」と僕は言った。
 デル氏は僕のちんこをズボンの上からポンと触り、僕は「あふんッ」という声を出し、デル氏は嬉しそうな顔をした。
 「どうしてデル氏は男色になったんだ?」と誰かが言った。
 「女はまんこ触らせてって言っても触らせてくれないけど、男はみんなちんこを触らせてくれるじゃないですか。だから男の方がいいんですよ。そう思いませんか」とデル氏。
 「だいたい俺はちんこなんて触りたくねえもん」と誰かが言った。
 「わかってないなあ。あなたはちんこのよさが何もわかってないですね」とデル氏は言って、再び僕のちんこをポンと叩いた。「あふんッ」と僕は言った。

代々木公園

 午前5時まで飲みました。和民を出て、早朝の薄闇に包まれながら、この後のことについて話し合いました。音楽ガッタスに行く予定がある者は、℃太郎さんと僕だけでした。この2人以外は帰ることになりました。僕と℃太郎さんは朝6時くらいに、今日のイベントの会場である渋谷AXに到着しました。まだ閉められている黒い門のところに、1人だけヲタがいて、携帯をいじくっていました。僕は、凄く必死な人だな、たぶんこんこんヲタなんだろうなと思いました。僕と℃太郎さんには眠るところが必要だったので、漫画喫茶やカラオケ屋を探しましたが、どこも割高だったので、代々木公園に行くことなりました。

 代々木公園の中で多くの犬とすれちがい、その度に僕は目を細めました。死んだ飼い犬のロッキーのことを思い出しました。あいつ、天国で元気にやってんのかなあ。僕と℃太郎さんは公園の真ん中らへんまで行き、日陰のベンチに居を定めました。近くのベンチではホームレスの人が青いシートに包まれて静かに眠っていました。
 「さて、音楽ガッタスのイベント開始まで、あと9時間だね」と℃太郎さん。
 「そうですね。とても長いですね」
 「じゃあ寝ようか」
 「寝ましょう」
 僕と℃太郎さんはベンチに横になって目を閉じました。僕はなかなか眠りにつくことが出来ませんでした。逆にどんどん目が冴えていきます。酒が飲みたいなあと思いました。℃太郎さんはすやすや眠っていました。しかし、横になって30分くらい経つと、℃太郎さんは目を覚ましました。
 「寒くて眠れないね」
 「そうですね。お酒飲んでもいいですか?」
 「イベントまでまだ時間があるから大丈夫じゃないの?」
 「わーい! 飲みます」
 僕は、和民で飲みきれなかった焼酎ボトルをカバンから取り出し、それをちびちびやり始めました。℃太郎さんは携帯をいじっています。ミクシィか2ちゃんの狼を見ているのだろうと思いました。

ラーメン

 「おなかがすいてきたね。お昼ごはんを食べに行こうか」と℃太郎さんが言った。
 「そうですね。行きましょう」と僕は言った。
 「何を食べようか」
 「そうですね、ラーメン的なものがいいです」
 「じゃあラーメン屋を探そう」
 ℃太郎さんについて歩いていく。気が付くと渋谷の真ん中らへんにさしかかっていた。空は青く晴れ、様々な人が僕の周りを過ぎ去っていく。℃太郎さんが「ここはどうだい」と言って立ち止まった店は、多少値が張ったので、「日高屋とかないですかね」と僕は言った。
 「そっか、ふっち君は安い方がいいのか」と℃太郎さんは言って歩き出した。しかし日高屋やそれに似た安い店は見つからなかった。最初のラーメン屋に戻ってきて、そこに入ることになった。℃太郎さんは、トッピング用のニンニクを指差し、「ふっち君、ニンニクがあるよ。食べちゃえばいいじゃん。ユー食べちゃいなよ。梨華ちゃん認識してもらえるかもしれないよ」と言った。
 「ちょっと、冗談はやめてくださいよ。そんな認識のされ方はしたくないですよ」と僕は言った。
 ラーメンを美味しく食べ終わり、店を出た。明るい日差しが僕の頭をなでる。そして僕は道行く女の子たちのことが気になり始めた。
 「みんなエロいですね。エロくないですか。ミニスカから足を出してるあの子、めっちゃエロいっすね。あ! あの子の足もすごくいいな。あ! あの谷間を見てくださいよ、あのオッパイを僕は揉みしだきたいかもしれません」
 「ふっち君、何かが溜まっているようだね。発散したほうがいいんじゃないかい。そのままの状態で梨華ちゃん握手したら大変なことになってしまうよ」
 「梨華ちゃん握手する直前にリカニーをするわけにはいきません。梨華ちゃんはそういうの嫌がると思います。僕は我慢します」

ハロショ

 イベントまでまだまだ時間があったので、原宿のハロショに向かった。店の中にはなぜか空気清浄機みたいなものが置いてあった。梨華ちゃんの写真を探す。店の奥の壁に申しわけ程度に梨華ちゃんのコーナーがあって、少し悲しい気持ちになった。その隣にはあややのスペースがあったが、梨華ちゃんよりさらに小さなスペースだったのでたいそう驚いた。
 「写真が2種類しか売ってないですよ。あややってこんなに人気が落ちたんですかね」と僕は言った。
 「そうみたいだね」と℃太郎さんは言った。

刺客

 ℃太郎さんと僕は渋谷AXに向かってひたすら歩く。
 「さすがに疲れてきたね」と℃太郎さん。
 「そうですね。足がつってしまいそうです」
 僕は、ちびまる子ちゃんに載っていた苦しい時の歩き方を思い出した。教頭先生か誰かがまる子に教えていたあの歩き方を。僕は体を前に倒した。すると自動的に右足が前に出た。もう一度体を前に倒す。すると自動的に左足が前に出た。僕はそうやって途中からは歩いた。
会場前の広場に到着した。そこにはたくさんのヲタがいて、仲間同士で談笑していた。《僕はブログに顔をさらしているので、もしかしたら指をさされるかもしれない》そう思った。《それどころかナイフで刺されるかもしれない。僕は梨華ちゃんのことを異常なやりかたで愛しているので、マジヲタの反感を買っているかもしれない。ピンクのTシャツを着たある1人のヲタが近くにやってきた。ひょろひょろした体つきで、細い目に小さな黒目が光っている。その男がふらりと体を寄せてきて、「死ねふちりん!」と言ってナイフを僕の胸めがけて突き出した。僕はその男を十分に警戒していたので、その攻撃をうまくかわすことができた。そのナイフは、僕の隣にいた℃太郎さんの胸に深々と突き刺さった。男はナイフから手を離して、「うわ、うわああああ!」と叫び、走って逃げた。僕はその男を追うか℃太郎さんの看病をするか迷ったが、℃太郎さんの看病を優先することに決めた。
 「大丈夫ですか℃太郎さん!」
 「ふっち君、俺はもうダメかもしれない……」
 「何を言っているんですか、そんな気弱なセリフは吐かないでください! ℃太郎さんは決して死なないはずじゃなかったんですか!」
 「ううう……いたい……超いたい……」
 「℃太郎さん死なないで! あいつは僕を狙っていたんです。僕がうまくかわしたばっかりにこんなことになってしまい、すみませんでした」
 「いいんだ。年若いふっち君が死ぬより、年寄りの俺が死ぬべきなんだ。しかし、一つだけ悔いは残る」
 「なんですか! 悔いとはなんですか!」
 「仙石先生と結婚したかった……ガクッ」
 「℃、℃太郎さあああああああん!」》

音楽ガッタスイベ1回目

 イベントの入場口が開いた。僕と℃太郎さんは1回目のチケットは持っていないので、入場口の近くのベンチに座って行列が流れるのを見ていた。すると、車椅子に乗った可愛い若い女の子が目に留まった。「かわいいな……ちょう萌える」と思ってじろじろ見ていたら、女の子と目があってしまい、僕は目を逸らせた。
 「ちょっと、℃太郎さん、あそこにいる車椅子の子が萌えるんですけど」
 「ふっち君、見境がなくなってきたな。やはり溜まったものを出したほうがいいんじゃないかい」
 「そんなことできませんよ。もうすぐ梨華ちゃん握手するんですから」
 僕は車椅子の美少女に目を戻した。「なんて純朴で清楚な女の子なんだろう!」と思ってじろじろ見ていたら、また目が合った。僕と彼女はほぼ同時に目を逸らした。「やばい、見すぎたかもしれない。好意があると思われたらどうしよう。まあ、好意あるんだけど。でも梨華ちゃん! 僕は梨華ちゃんが一番好きなんだからね!」

 1時間もしないうちに出口が開かれた。「ありがとうございます!」という若い女性の声が聞こえてくる。人びとが流れ出てきた。僕と℃太郎さんは出口のすぐ近くのベンチに居たので、その人たちの様子がよくわかった。みんなひどく締まらない顔をしている。とても幸福そうである。
 「みんなニヤニヤしていますよ。みっともないし、かっこ悪いですね。大の大人がする表情じゃないですよ。誓います、僕は決して今日、握手が終わって出口から出た時に、ニヤニヤしたりいたしません」
 「ははは、絶対に無理だと思うよ」
 「いいえ。無理じゃありません。あのようなみっともない顔は誰にも見せたくありません」
 「いや、でも、幸せそうな良い顔してるよみんな。アイドルってすごいな。こんなにたくさんの人を、ほんの数十分で、笑顔が抑えきれないほど幸福にしちゃうんだから」
 出口から車椅子の少女がゆっくりと出てきた。顔を歪ませて泣いている。
 「あ、さっきの女の子ですよ。泣いてますね。萌える……」
 「うーむ、あの子は、よっぽど嬉しいことを言ってもらったんだろうね。よかったよかった」

音楽ガッタスイベ2回目

 その日2回目のイベントの入場が開始され、僕らは列に並んだ。中に入ると席番号が書かれたを受け取った。そして、僕らは渋谷AXの壁に不可解なものを発見した。「梨華ちゃん痩せたね ちゃ〜みぃ」というこの書初めをどのように捉えたらいいのか、まったくわからなかった。
 「これは梨華ちゃんが書いたんですかね」
 「そうだよ思うよ。ちゃ〜みぃって書いてあるし」
 「となると、梨華ちゃんは自分で『梨華ちゃん痩せたね』って言っているわけですか」
 「そういうことになるね」
 「なるほど。梨華ちゃんはお茶目ですね」
 「そうだね」

 トイレに行ってちんこを出してみると、ちん毛が大変なことになっていた。つまり、ものすごい勢いで巻き込まれていた。僕はちんこの皮をむいて、ちん毛を引っぱった。やがて僕のちん毛は全て解放された。そのうちの何本かは僕の体から離れていった。「さようなら、ちん毛くん」と言って僕は洗面器のところに向かった。ちんこをたくさん触ったので、石鹸をたっぷりつけて手を洗った。で自分の姿を確認する。濃いピンクのヲタTを着ているスポーツ刈りのその男は、僕のことをナルシスティックな目で見つめていた。

 みんなに言われたいことを書き初め風に書く、というコーナーが始まり、「梨華ちゃん痩せたね」の意味が判明した。
 「梨華ちゃんは『痩せたね』って言ってもらいたいのか。なるほどね。でも梨華ちゃんはもともとスレンダーだし、痩せたかどうかよく分からないな。そもそも、痩せる必要があるとは思えないな。いっぱい食べないとダメだからね、梨華ちゃん
 「1回目の握手会の時に8割くらいの人が『梨華ちゃん痩せたね』と言ってくれました。あの、みなさん、もう『痩せたね』は言わなくてもいいですよ。自分の思ったことを言ってくださいね」と梨華ちゃんは言った。
 「そっか。じゃあ、僕は梨華ちゃんに……、大好きだよ!って言おう」

 よっしーの『みんなに言ってもらいたいこと』は、『1、2、3』だった。会場のみんなが「1、2、3!」と叫ぶとよっすぃーが「どすーん!」とやって盛り上がり、それを受けてまいちんが「1、2、3、ダアー!」を普通にやって大きな笑いが起こり、観客から梨華ちゃんコールが巻き起こった。
 「え〜、しょうがないなあ。じゃあみなさん、『1、2、3』をセクシーに言ってくださいね」と梨華ちゃんは言った。
 「ええええー!」と観客は非常に嫌がった。
 すると梨華ちゃんは、「なによー。それじゃあ私、やらないも〜ん」と可愛らしく駄々をこねた。でも結局はやってくれることになって、「1、2、3、ハッピー!」とやった。僕は一緒にはやらなかったが、ニヤニヤした。
 新曲の『Come Together』を歌い始めた。梨華ちゃんのことだけを見ようと思っていたけど、仙石みなみちゃんとのっちのことをもどうしても追いかけてしまい、「コラふちりん! 梨華ちゃんだけを見つめなさい! 梨華ちゃんが悲しんじゃうよ」と自分に言い聞かせ、梨華ちゃんを見つめた。梨華ちゃんは、こんなのお手のものだわみたいな感じでダンスを踊り歌を唄っていた。「さすがだなあ梨華ちゃん。この道を8年もやってるだけのことはあるな。まあ僕も5年くらいリカニーしてるけど。あ! 梨華ちゃんのパンツが見えそう!」

 ライブが終わり、握手会が始まった。「梨華ちゃん、大好きです!」と言って、こんこんには「勉強がんばってね」と言う。それを改めて確認した。握手の順番を待ちながら、シミュレーションを繰り返した。そして僕のいる列が呼ばれた。こんこんの特攻服を着ている人の後ろを歩いていく。胸がドキドキして何がなんだかわからなくなってくる。咳払いをして、「あー、ただいまマンコのテスト中」と呟く。僕の2メートル前に愛しの梨華ちゃんがいる。梨華ちゃんの横顔はとても綺麗で、にっこり笑うとキラキラとした光が放たれる。「ああ、梨華ちゃん、大好きだよ。大好き」と呟く。梨華ちゃんの目の前に来た僕は、「梨華ちゃん、大好きです!」と、梨華ちゃんの耳にしっかり届くよう大きな声で言った。僕の両手とつながった梨華ちゃんの両手は小さくて柔らかかった。梨華ちゃんは僕の目を見ながら少しだけ笑い、「ありがとうございます」と言った。それから仙石みなみちゃんと握手をして、僕の背後にいるらしき係の者にわき腹を殴られ、不可避的にこんこんの前に来た。こんこんは僕の前にいる黒いこんこん特攻服を着た人の方を向いて、困ったような顔をしていた。こんこんヲタはかなり粘っていた。僕はこんこんと握手をした瞬間に、係の者にわき腹を殴られた。気が付くと僕はのっちの前に居て、「がんばってね!」と言うと、のっちはニコっと笑った。最後の吉澤さんは真っすぐに立って包み込むように笑い、僕の手を握った。「おつかれさまです」と僕は言い、わき腹を殴られ、会場の外に放り出された。

知り合いに遭遇

 会場前の広場を放心状態でふらふら歩いていると、何者かに「ふっちさん!」と声を掛けられた。それは僕の昔からの知り合いのM君だった。
 「ふっちさんじゃないですか。僕です。いやあ、久しぶりですね」
 「おー、M君、おつかれいな。元気そうですね。調子はどうですか」
 「ぼちぼちですね。さっき2列目で見てきました。シングルを30枚くらい買いましてね」
 「おー、そいつはすごい。気合入ってますね」
 「ふっちさんは何枚買いましたか?」
 「僕は1枚しか買ってません。それが当選しました」
 「なるほど。それにしても、相変わらず梨華ちゃんヲタなんですね。僕の知り合いでずっと推しが変わっていないのはふっちさんくらいですよ」
 「ははは。まあ、細く長くやっていこうと思っています」
 M君は僕のおなかを手の甲でポンと叩いた。
 「ふっちさん、ここ、ちょっと目立ってきていますね」
 「そうなんですよ。メタボリってきちゃってさ。参っちゃいますよ、ははは」
 「あはは」
 「あ、ちょっと、知り合いを探してきます」
 「はい、おつかれさまでした」
 「おつかれいな〜」

反省会

 ℃太郎さんは植込み沿いのベンチに座っていた。僕はその隣に座った。
 「ふっち君、握手はどうだった?」
 「あの、なんていうか、ふひ」
 「ん?」
 「ははは、ふひへ」
 「失語症にでも陥ったのかい?」
 「ははは、ふひほ」
 しばらくして僕は言葉を取り戻した。
 「ええと、僕は、とうとうやりました。梨華ちゃんに愛の告白をしました。梨華ちゃん大好きです!と言いました。返事は、ありがとうございましたでした。これは脈ありと見て差し支えないと思います」
 「おーすごいじゃん。そうなると、次はキスだね」
 「き、き、キスですか。梨華ちゃんとキス……。ふひへ! しかしどうやったらキスまで持っていけるのでしょうか……」
 「まあ、がんばるしかないよね」
 「ざっくりとしたアドバイスですね……」
 「そして俺はぜんぜんダメだったな……。最初から最後まで、アウアウってなってたよ。仙石先生に告白できなかった。ふっち君に負けちゃったな」
 「ちょっと! 今までどんだけ握手してきたんですか! 何百回もしてるじゃないですか。なんで今さらアウアウするんですか」
 「夜の部の握手会ではリベンジをしようと思うよ。そういえば、匂いはどうだい。君の手からは梨華ちゃんの匂いがするかい」
 「あ! くんくん! すごい! せっけんの匂いがします。握手する前に石鹸をつけすぎた為に、石鹸の匂いしかしません……」
 「あはは、おっちょこちょいだなあ、ふっち君は」
 そして℃太郎さんは入場列に並びに行った。僕は夜の部のチケットがないので、ベンチに座ったままぼんやりしていた。渋谷の夜の闇は少しずつ濃くなっていった。カバンの中に和民の焼酎ボトルが入っていることを思い出し、それを取り出して一口飲んだ。なんだかとても苦かった。