梨華ちゃん飲酒

 2ちゃんねるにアップされていた盗聴音源を聞いた。梨華ちゃんは酒を飲むらしい。少なくとも飲んだことがあるらしい。なんてこった。あるのか。マジでか。どんな酒だよ。ドラフトワンかな。ショックだ。なんかしらないけどすごく死にたいような気分だ。どうしよう。死ねばいいのかな。よし、死ぬか。ああ無理だ、死ねないよ。痛いのが怖いもの。というかそういえば、僕は梨華ちゃんに酒をすすめたことがある。20歳の誕生日のときのバースデイカード。それに僕は酒のことを書いた。酒のことを書くのを避けなかった。

 「梨華ちゃんもお酒を呑める歳になったね、おめでとう、お酒はとてもいいものです、ぜひお酒とともに人生を歩んでください。とりあえずドラフトワンはいいですよ。おすすめです。ビールっぽい味で安くてビールじゃない酒です。まあまあうまいです」

 もしかして僕のせいなのか。僕のせいだ。僕のせいでなければいったい誰のせいだと怒鳴りたくなるくらい僕のせいだ。僕が悪いんだ。いや別に20歳すぎれば飲んでもかまわないんだけど、梨華ちゃん、やはり君は酒を飲むべきじゃなかった。僕があんなこと言わなければよかった。そうすれば君は呑まなかったかもしれない。少なくともキャーキャーいっちゃうほど深酒はしなかっただろうよ。酒は飲んでも呑まれるなって、あれほど言ったじゃないか。いや、言ってないけど、そんなニュアンスで書いたじゃないか、バースデイカードにさあ。どうなってんだよ。梨華ちゃん、飲みすぎはよくないよ。自分を見失ってしまうからね。キャーキャーって、なっちゃうのは、あまりよくないと僕は思う。どういうことだよ、キャーキャーって。どんな状況なんだよ。説明しろよ。アカウンタビロッ、説明責任を果たせよ。石川。おい。ふざけんなよ。梨華。ちゃん。酔ってねえよ俺は。ふざけんなっつってんだよ。酒は飲んでも呑まれるなよ。まじで。キャーキャーってなんだよ? まわりの人間はどんな感じなんだよ。教えていただきたいよ。男か、男なのか。そうなんだな。いま流行りのカトーンか。光一か。えなりか。誰だ。みのもんたか。ふざけんなよ。その、ウエンツとかそういった方面の男たちか。そんな、そんな奴らとキャーキャーなの? まじで? まじだったらまじで死んでしまいたい。キャーキャーってお前、梨華ちゃん、こっちがキャーキャーだよ。断末魔だよ。もう大きな驚きだよ。ぜんぜん隠せないよ。隠したいけど、隠せないんだ。それだけびっくりしてんだよいま僕は。とまどってるし、なんか逃げ出したい気分だよ。しかしまわりこまれてしまった! ちょっと待てよ、そのキャーキャーについてくわしくきかせてもらいたいのだが。なんで2回なのか? キャー、キャー、なんで2回なのか。それもまた問題だろ。2回って。2回、おいちょっと待て、2回やられたのか。誰かに、徹平なのか? 2回も何をされた! おいぶっ殺してやるぞウエンツ。ウエンツ、お前は徹平をとめろよ。何やってんだよコンビだろ。にやにや眺めてんじゃねえぞウエンツ博士。おまえの後ろの漢字なんて知らないけどな、とにかく、知らないよ、怒るなよウエンツ、だから、ウエンツ! 怒ってんのは俺のほうだろうが! なんなんだよ、やんのか、こら、やんのか、こちとら精神病院通ってんだぞ、法廷でどっちが有利かわかってんのかこら、やんのか、それでもやるのか? え、やるの、ちょっと待って、落ち着けよ、やるのかよ、びっくりだよ、血気盛んだなお前は、ウエンツ、話し合おう。とりあえずだな、酒を飲んでくれ、つぐから。おー、いけるね、ウエンツ君、きみは、けっこういけるくちだね、こんどいっしょにサシで呑まないか。ところで、だから僕が言いたいのはだね、きみは徹平の淫行をとめるべきだった、ということだよ。わかるかね。理解できるかね。キャーというのが聞こえた時点で、梨華ちゃんをたすけにいけよ。なんなんだよ。おい。何だまってんだよ。こら。殺すぞ。あ、いやごめん、けんかはやめよう。怖い顔するなよ、君には笑顔がいちばん似合うんだからさ。アイドルだろ? ちょっとまてよ、もしかして貴様、梨華ちゃんに手を出したんじゃないか。2回目のキャーは、おまえが梨華ちゃんになんかしたから出たんじゃないのか。おい、そうなんだろ。よくも、よくも、ちくしょう、ワット同士で結託しやがって。そういう団結力とか、連携のよさは、もっと別のところで発揮してくれまいか。ちくしょう! もういい、男のことはもういい。男はからんでない、そうだね梨華ちゃん。そうだと言ってほしいな。じゃないと僕、死ぬしかないからさ。わかるだろ。わかってくれよ。ああごめんね、うたがって悪かったよ。あやまる。キャーキャーは、単にこう、テンション上がって発せられただけなんだよね。女の子同士で飲んでてさ。そうでしょ。ちがうの? そうだよね。そうだろう? ふう、そうか、安心した。よかった。ああ、でも! キャーキャーだなんて、梨華ちゃん、君がもし今後またそうなった場合、僕はき、君についていけるかな。つまりね、梨華ちゃんのテンションに、ノリに、ついていけるかなって心配なんだ。僕は、酔ったらまあそれなりにテンションあがるけど、キャーキャーってほどじゃないんだ。そこまでテンション上がらないんだ。ひどく心配だよ。どうしよう。そうだ、僕は酔うとねえ、道端の赤いコーンがあるでしょ、あの、工事現場にあるような赤い三角錐の物体だよ。あれを、酔うとね、手に持ちたくなるの。なっちゃうのこれ。なんか知らないんだけど。本能的に。たぶん梨華ちゃんがキャーキャー言うのと同じことだと思う。梨華ちゃんは「キャーキャー」でしょ、僕は「三角コーン」なわけ。そういう関係性なんだ。とにかく僕は梨華ちゃんがキャーキャー言ったら、コーンを持ってなんかしよう。何しようかな。僕の頭にかぶせちゃおうかな。そう僕は赤い三角錐の人間になって、梨華ちゃん、君をさらによろこばせよう。そして僕はコーンの中でつぶやくんだ。梨華ちゃん、愛してるよって。