トイレを

 出る。その時にはもう時間のことはどうでもよくなっていた。スタンディングの場所取りのことも。はっきり言って、さっきからりかりんの愛らしい歌声がきこえてきている。僕は思った、「別に心配する必要はないじゃないか。僕はトイレを出れば梨華ちゃんに会える。それは確実なことだし、それだけで十分だ」と。僕は鏡のまえで髪型をととのえた。う〜ん、角度によっては、なかなかの男前だ。梨華ちゃんと釣り合うかもしれない。角度によっては。梨華ちゃんの声は、鏡のまえで首を動かしているあいだも絶えず、僕の鼓膜を揺らし続けていた。それはまるで甘い夢の中を通りぬけてきたような声だった。梨華ちゃんの声はピンク色の衣をまとい、僕の耳の中で優雅に舞いおどる。