ふっち君の日記。

石川梨華ちゃんにガチ恋しているおじさんの記録

駅ビルの片隅に、なっちが居た。

 友達のN君とカラオケに行った。僕はなんだか落ち込んでいた。どうせこの歌はどこにも届かないだろう、と思いながら『都会っ子純情』を歌った。歌い終わると、画面にキュートのみんなが現われて、びっくりした。都会っ子を唄ったことに対して、彼女たちが感謝の意を表明した。なんだか嬉しくなったが、申し訳ない気持ちにもなった。きみたちの大切な曲を悲しい気持ちで歌ってしまって、ごめんね。そして舞美ちゃんのことをかわいいと思った。N君が、「左下の子、誰? かわいいね」と言った。僕は、「あれは舞美ちゃんだよ、かわいいでしょう」と言った。それから、N君がサンボマスターの『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』を唄った。PVの映像が流れた。山口さんが、今にも死にそうな凄絶な様子で歌っており、N君もまさに絶唱で、僕の心はびりびり震えた。悲しみで花が咲くものか。その通りだよな。部屋の中でひざを抱えてずっと泣いていても、梨華ちゃんは手に入らないよ。いや、わかってるよ。それはわかってるんだけど、現実はあまりに強大で、まるでティラノサウルスのようで、僕なんかが立ち向かえるとはとても思えないんだ。怖くて恐ろしくて、しょうがないよ。それからN君が、田村ゆかりを裏声で歌った。それはとてもゆかりんっぽかった。N君はにこにこして、すごく楽しそうだった。この様子をゆかりんが見たら、きっと喜ぶだろうなと思った。カラオケ代は、N君が全部払ってくれた。どうもありがとう。

 それから笑笑に行き、お互いに「死にたい・・・」を連発した。じゃあ一緒に死のうという話になって、じゃあどちらが先に死ぬかという話になって、「君が先に死んでいいよ」「いやいや、君が先に・・・」と譲り合いになり、先に死ぬ人が決まらなくて、結局、一緒に死ぬのはお流れになった。同時に死ぬのは、二人とも嫌がったわけである。「アッキーナに、好きにしていいよって言われたら、どうする?」とN君に質問したら、N君は「うーん、やっちゃうかも・・・」と答えた。「節操がないよ! 節操ないなあN君は!」「うるせーよ!」「だって、N君には、S子ちゃんという好きな人がいるのに。好きな人がいるのにアッキーナとやっちゃうなんて、節操がないよ。いくら可愛いとは言えね。S子ちゃんはきっと悲しむよ、それを知ったら」「ふっち君だって、アッキーナに誘惑されたらやっちゃうんじゃないの?」「やらないよ、梨華ちゃんがいるのに」「ふーん、まあ口だけなら、いくらでも言えるけどさ。実際にアッキーナが言い寄ってきたら、どうなるもんだか」「そりゃあ、未来のことだから、絶対しないとは言い切れないけど、絶対にしないっていう気持ちは持っていたいな。ところで、さゆみんに誘惑されたら、どう?」「うーん、やっちゃうなあ・・・」「節操ないなあ!」「うるせーよ!」

 時間を巻き戻そう。カラオケに向かう途中、青いオープンカーが信号待ちをしていた。かっこいいなあって思った。その脇を通りすぎ、振り返ると、助手席に乗った若い女性と目が合った。その目は、軽蔑の色をうかべていた。それから、女子高生の集団が現われた。その後ろを歩きながら、僕は「やばい、これはやばいよ」と呟いた。N君は、「え? 何がやばいの?」「女子高生が、やばいんだよ・・・」その足は、白くてふっくら、柔らかそうだった。食べてしまいたい。その髪は、僕の顔がそこに映りそうなほど、きれいで瑞々しかった。僕はその髪を、食べてしまいたい。

 酒手はN君が全部払ってくれた。どうもありがとう。笑笑を出て、駅ビルの中を千鳥足で歩く。カップルの姿がやたらと目につく。腕を組んで幸せそうに歩いている。梨華ちゃんが、男と歩いているところを想像してしまった。死にたくなった。いやがらせだ。これは、僕にたいするいやがらせなのではないか。こいつらは、地獄からの使者じゃないのだろうか。それとも、何ものかによって召喚せられた悪魔だろうか。エロイムエッサイム。ふと、通路の片隅で寝そべっているホームレスの姿が目に入った。僕はカップルを憎み、ホームレスに愛情を抱いた。ホームレスは、天国から舞い降りたエンジェルのように思えた。つまり、彼らはみんな、一人残らず、「なっち」みたいだった。僕はホームレスたちと静かに息を重ねる。

 家につくと、僕は梨華ちゃんタオルにただいまと言って、キスをした。大好きだよ。愛してるよ。幸せになろうね。ずっと一緒にいようね。どこにも、行かないでね、梨華ちゃん・・・。